「土偶を読む」を読んで

読書
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土偶は何か?

縄文時代の遺跡から出土する土偶。誰でも何かで(教科書にも載っていた)見た事があると思います。奇妙な形のフィギュア。

土偶については妊娠した女性をかたどったものだとか遮光器(エスキモーなどがつかう雪目を防止するためのサングラスのようなもの)を掛けているようにみえるものなど姿形がバラエティにあふれ、そのバラエティ豊富さのゆえに何であるかよくわかっていませんでした。

この本の著者は土偶は縄文人たちが日常食べていた食物(クリトチノミや貝など)の精霊をかたどったフィギュアであるという思い付きを得ます。

その思い付きを様々な方法で検証していきます。それが本書です。

そのために著者は「縄文脳インストール作戦」と称してフィールドワークを行ったりもします。渓谷へ行ってオニグルミを拾ったり、海岸へ行って海に潜り貝を採取したり。 そのフットワークの軽さも好感が持てます。

著者は蓄積された考古学の文献と照らし合わせ自分の考えについての確信の度合いを高め、ある貝の生息域とその精霊像である土偶の出土分布を検証して安心したりしていきます。

複数の方法を用いることで著者は最初は思いつきに過ぎなかったシナリオに確信を持つようになっていきます。

その過程は本書の中で誰でも納得できるように筋道立てて説明されていてわかりやすいです。

この過程は名探偵が見事な推理を披露しているようで気持ちがいいです。

土偶とモチーフの形態の類似が一目瞭然

本書の冒頭に掲載されているカラー写真(モチーフとなった食物とその精霊像としての土偶が1ページ内に並んでいる)を眺めるとそれぞれの土偶はそのモチーフをかたどった以外には見えません。

もちろん著者が苦闘の末にモチーフを同定してくれたものをこちらは眺めているだけなのですが。

土偶の研究が始まって130年。一目瞭然なように見えることが何で100年余りも解読されなかったのかが不思議だと著者は言っているが確かにそうだと思いました。

それについても著者の意見が書いてあり、著者の言うとおりだと思いました。

気になった箇所

以下は読んでいて気になった箇所の抜粋。

p30

古代人や未開人は「自然のまま」に暮らしているという誤解が広まっているが、事実はまたく逆である。かれらは呪術によって自然界を自分たちの意のままに操作しようと試みる。今日われわれが科学技術によって行おうとしていることを、かれらは呪術によって実践するのである。つまり、遺伝子を組み換えたり、化学肥料を開発するのと同じような情熱で、かれらは植物に対して呪術を行使する。異なるのはその方法と費用対効果だけであって、収量を上げるために自然界を制御しようとする心性は何千年経とうが変わらない。

縄文人などというと現代人よりも純粋でお人よしであるという勝手なイメージがあります。そうでなくて現代人とおなじ心性をもった人たちが呪術を駆使して自然をコントロールしようとしていたと著者は言っています。そういう意見は新鮮でした。

本書は硬い文体で書かれていますが、その割にかなりわかりやすく、著者の人柄が垣間見えるようなユーモアも随所に見られ読んでいて飽きがきません。